賃貸物件で画鋲はOK?



 

■賃貸物件を退去するときの原状回復義務とは?
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通常損耗や経年劣化以外による傷や汚れを修繕すること

国土交通省のガイドラインによれば、原状回復とは「入居者の故意や過失、善管注意義務違反、通常使用を超えるような使用をしたことによって発生した傷や汚れについて復旧すること」です。一方で、「通常損耗(そんもう)」と呼ばれる、誰が住んでも同じようにできうる傷や汚れ、「経年劣化」と呼ばれる、時間の経過とともに自然に発生する傷や汚れはこれに含まれません。

 

「原状回復」と聞くと、借りている部屋を入居時と同じ状態に戻すことをイメージしがちですが、これは誤りです。例えば、自分自身で家を建てたら、新築当時のきれいな状態をなるべく維持するために、傷や汚れができないように気をつけながら生活する人が多いでしょう。しかし、人が生活する以上はどうしても一定の傷や汚れができてしまい、新築当時の状態を維持することは困難です。

 

このように、どんなに気をつけていても通常の生活を送る上で発生する一定の傷や汚れはやむを得ません。これらの傷や汚れに対する修繕費は、契約期間中の賃料に含まれていることからも、入居者負担にはならないのです。他方、わざと傷をつけることはもちろん、気をつけていれば発生しなかったと考えられる傷や汚れの修繕費は、原状回復費用として入居者が負担しなければなりません。

 

修繕費が入居者負担になる具体例

原状回復にともなう修繕費が入居者負担になるのは、具体的に以下のようなケースです。

・居室内で喫煙したことにより、壁紙にヤニがついた

・壁や床、備え付け設備を故意、または不注意によって損傷させた(ペット飼育によるものも含む)

・喫煙やペット飼育により、部屋全体に臭いがついた

・雨の日に窓を閉め忘れたことにより、フローリングや畳が変色した

・結露を放置したことにより、カビが発生した

なお、居室内での喫煙やペット飼育が禁止されている物件であれば、用法違反によって損害賠償を請求されるケースもあります。バレないだろうと過信せず、必ず賃貸借契約書の内容にそった使い方をしましょう。原状回復にともなう修繕費を入居者が負担する場合は、その費用が敷金から引かれたり、敷金で足りない場合は追加で請求されたりします。

 

修繕費が大家さん負担になる具体例

修繕費が大家さん負担になる具体例は以下のとおりです。これらはすべて、傷や汚れの原因が通常損耗や経年劣化であると認められています。

・日照によるフローリングや畳、壁紙の変色

・重い家具や家電を置いたことによる床のへこみ

・テレビや冷蔵庫等の後部壁面の電気ヤケ(黒ずみ)

・エアコンを設置するために壁にあける穴

冷蔵庫やテレビ、エアコンは一般的に生活必需品と考えられており、それを設置することによって生じる一定の傷や汚れは通常損耗にあたります。ただし、入居者が所有、または新たに購入するエアコンの設置ができるのは、それが許可されている場合のみです。

 

▼6年間住むと壁紙の修繕義務はなくなる?

国交省のガイドラインに、壁紙の価値は6年で1円になると記載されています。そのため、同じ物件に6年以上住むと、壁紙の張替え費用は入居者に請求されない、と解釈されることがあります。しかしこの解釈は、必ずしも正しいわけではありません。ガイドラインには、たとえ壁紙の価値が1円になっても「入居者は引き続き、善良な管理者として使用する義務を負っている」「壁紙の張替えが必要になったときの工事費(作業費)や人件費は入居者負担となることがある」と記載されています。

 

6年以上住めば、すべてのケースで壁紙の修繕義務やその費用負担がなくなるわけではありません。入居者が善管注意義務を怠っていたと判断された場合や、故意や過失によって傷や汚れができたと見なされた場合には、費用の一部が請求される可能性があるのです。過去の裁判では、8年間居住した入居者に対して、壁紙の張替え費用の半額を負担するよう命じたケースもありました。(東京地判 平28.12.20)

 

 

賃貸物件の壁に画鋲は刺しても良い?
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壁に画鋲は刺して良い

画鋲を使って壁にカレンダーやポスターなどをかけるという行為は、通常の生活においてよく行われていることです。この行為は通常使用の範囲であり、それによってできた穴は通常損耗と考えられる、とガイドラインにも記載されています。したがって、契約書の特約条項に特段の記載がなければ、壁に画鋲を刺しても問題はないのです。また、壁にカレンダーやポスターを掲示すると、日焼け跡や壁紙の変色が起こる場合があります。しかし、これも通常使用の範囲内と見なされるため、入居者に原状回復義務はありません。

 

▼釘やネジはNG!

賃貸物件では、壁に釘やネジは刺さないようにしましょう。画鋲とは異なり、壁に釘やネジを刺してできた穴に対する修繕費は、入居者の負担になるためです。画鋲やピンの場合は、壁に刺してできる穴が比較的小さく、目立ちません。他方、釘やネジの場合は穴が大きく、それらを抜いたときに跡が目立ってしまいます。さらに、釘やネジを壁に刺すと、その奥にある下地ボードを傷つけてしまうことも…。壁紙のみならず、下地ボードの取り換えが発生すると修繕費は高額になるため、特に注意が必要です。

 

一部で画鋲禁止の物件もある

通常は、賃貸物件で画鋲を使用しても問題ありませんが、中には契約書に画鋲の使用禁止を明記している物件もあります。ガイドラインには法的拘束力がないため、入居者にとって著しい不利益がない限り、優先されるのは契約書の記載内容です。そのため、個別のケースでは画鋲が使えないこともあります。

 

また、「画鋲は使用しても良いが、それにともなう壁紙の修繕費は借主負担とする」という記載がある場合も注意しましょう。こうした個別のルールは、特約条項に記載されているのが一般的。契約書は特約条項欄まですべて目を通し、少しでも疑問に思うことがある場合は、あらかじめ不動産屋さんにたずねましょう。

 

ドアや襖には刺さないようにする

居室のドアや柱、和室の襖(ふすま)など、壁以外には画鋲を刺さないようにしましょう。いくら画鋲の穴が目立ちにくいとは言え、ガイドラインで通常使用の範囲と記載されているのは、壁に対する行為のみです。画鋲はどこに刺しても良いのではなく、あくまでも「壁に刺して良い」と覚えておきましょう。

 

 

賃貸物件で画鋲を使用するときの注意点
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同じ場所に何度も刺さない

1つ目は、同じ場所に何度も刺さないことです。これをすると、穴は少しずつ大きくなっていきます。何度も同じ場所に刺した結果、「穴が大きくなって上手く固定できなくなったので、別のところに刺した」という経験がある人もいるのではないでしょうか。穴が大きくなってしまった場合は、通常使用の範囲と認められないことも…。その場合は修繕費を請求される可能性があるため、穴の大きさにも注意が必要です。

 

例えば、入居した時点で、過去に画鋲を刺したと思われる穴があったとします。このとき、「元々空いている穴だから良いだろう」「穴が増えるよりも既存の穴に刺した方が良いだろう」と同じ場所に刺すのはオススメできません。新たに画鋲を刺すときは、既存の穴は再利用せず、穴の場所が集中しない程度に場所をずらして刺すようにしましょう。

 

▼重いものをかけない

2つ目は、重いものをかけないことです。重いものをかけることで画鋲に負荷がかかりすぎると、穴が大きくなってしまいます。ガイドラインにも、画鋲を使って壁に掲示するものは「カレンダーやポスター等」としか記載されていません。よって、一般的な画鋲を使用する場合は、カレンダー程度の負荷がかかるものに留めるのが無難です。また、重いものかけるときは落下の危険性も考えなければなりません。例えば、ある程度の高さから額縁が落下すれば、床も傷ついてしまいます。壁に重いものをかけたいときは、その重さに適したグッズを選びましょう。

 

 

賃貸物件で画鋲を使用せずに壁にものをかけるには
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壁の穴が目立たないグッズを使う

壁の穴が目立たない便利グッズの一例としては、「マジカルピンフック」や「壁美人」が挙げられます。マジカルピンフックは、ピンを抜くと穴がふさがって、刺した跡が分かりにくくなるという優れもの。耐荷重別では4kgや8kgのものなど複数の種類があり、用途に合わせて選べます。ホッチキスの針を使ってフックを壁に固定する壁美人は、小さめの家具や家電を壁にかけることも可能です。

 

なお、これらの商品は壁の種類が石膏ボードの場合に使えます。石膏ボードは、アパートやマンションなど、多くの物件の壁に用いられている最も一般的な壁の種類で、画鋲を刺したときに白い粉がついてくるのが特徴です。

 

壁に穴をあけないグッズを使う

壁に穴をあけたくない場合や壁が石膏ボードでない場合は、壁に穴をあけずにものがかけられるグッズがオススメ。強力な粘着力がありながら、きれいにはがせる「コマンドタブ」やフォトフレームなどの小物が簡単にかけられる「ひっつき虫」などが有名です。値段も手頃なので、一度試してみる価値はあるでしょう。

 

ピクチャーレール付きの物件に住む

ピクチャーレール付きの賃貸物件に住む、というのも1つの選択肢です。ピクチャーレールとは、カーテンレールのようにフックがついている直線のレールのこと。壁や天井に取り付けられており、入居者は耐荷重の範囲内で自由にものをつるしてインテリアを楽しめます。

 

 

■まとめ
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国交省のガイドラインには、画鋲を使って壁にカレンダーやポスターを掲示するのは通常使用の範囲であり、画鋲の穴も通常損耗にあたると記載されています。そのため、入居者は通常、退去にあたって画鋲の穴をふさぐような修繕をしたり、その費用を負担したりする必要はありません。しかし、画鋲の使い方によっては、修繕費が請求される場合があります。画鋲を刺す場所はあくまでも壁に限定した上で、同じ場所に繰り返し刺すことを避け、重いものをかけないようにしましょう。

 

賃貸物件での画鋲使用に抵抗がある場合は、今回ご紹介した、画鋲を使用せずに壁にものをかける方法を試してみるのもオススメです。ルールを理解した上で、自分好みのお部屋づくりを楽しんでみてはいかがでしょうか。