■終活とは?
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終活とは、残りの人生をよりよく生きるために行う準備のことです。終活が必要な理由は、主に2つあります。
1つは、遺された家族の負担を軽くし、迷惑をかけないようにするためです。終活せずに最期を迎えると、遺した預貯金や保険を家族が把握できない恐れがあります。また、故人の意思が分からないので、「相続トラブルが発生する」「遺された荷物の整理や片付けが進まない」といったことにもなりがちです。
2つ目は、これからの人生を有意義に、よりよく生きるためです。
終活は、これまでの人生を振り返るよい機会です。学歴・職歴などの自分史や思い出、趣味・好きなものなどを整理すると、自分というものが改めて分かってきます。また、いざというときの準備を進めることで漠然とした不安を解消できるので、これから生きる未来を前向きに捉えやすくもなるのです。
終活というと、シニア世代が行うものと思われていますが、50代でも40代でも早すぎるということはありません。自分の身体機能や認知機能が衰える前に始めるのがおすすめです。身の回りの物や情報を整理したり、介護が必要になった時や終末期医療について考えたりするきっかけになります。また、葬儀やお墓にかかる費用を知ることで、老後の資金計画や生活設計を見直すよい機会にもなります。今回は、初めて終活を行う人のために、具体的なTODOリストをご紹介します。一気にやろうとすると負担がかかってしまうので、できそうなところから少しずつ進めてみましょう。
■済ませておきたい、終活のTO DOリスト
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⓵ エンディングノートの作成
終活を始める際は、「エンディングノート」を作成するとよいでしょう。エンディングノートとは、財産や、介護・医療の希望、葬儀の意思などの情報を1冊にまとめて記載できる冊子です。書店やネットショップで、さまざまなエンディングノートが市販されています。市販のエンディングノートには必要項目があらかじめまとめられているので、初めて終活をする人も、スムーズに自分の情報を整理できるのがメリットです。
エンディングノートには、主に次のような事柄を記入します。
・自身に関する基本情報(自身の名前、生年月日、本籍や遺言書の有無等)
・財産・資産(預貯金、口座、有価証券、不動産、その他の資産、借りているお金、貸しているお金など)
・年金・保険(加入年金の種類、加入保険の種類、受取人、連絡先など)
・医療・介護の希望(かかりつけ医、終末期医療、告知の希望、介護が必要になったときに介護を受けたい場所・人、介護資金など)
・葬儀・埋葬の希望
・関係連絡先
・公共料金の契約内容など
エンディングノートに記入する事柄はとても多く、なかには気持ちの整理が必要な事柄もあります。そのため、一度に全てを書き終えようとせず、書きやすい項目から少しずつ書き込んでいくのがおすすめです。また、エンディングノートをせっかく書いても、その存在を誰にも知らせていないと、いざというとき身近な人が困ってしまいます。エンディングノートがあることを信頼できる人だけに伝えておき、普段は人目に付かない場所へ保管しましょう。財産・資産の内容や口座の暗証番号といった大切な情報を守れるように、保護シール付きのエンディングノートもあります。
最近では、手書きのエンディングノートのほかに、スマホで利用できる「終活アプリ」も登場しています。デジタルのほうがお好みの人は、こちらを利用してみるとよいでしょう。ただし、必要なときに自分や家族がスムーズに開けるように、想いを託したい家族にパスワードを伝えておきましょう。
② 遺言書の作成
終活は、エンディングノートを作成するだけでは十分ではありません。エンディングノートは身近な人への言付けにとどまり、法的な効力はないためです。法的な効力のある意思を遺したい人は、遺言書を作成しておきましょう。遺言書を作成しておけば、自分の死後に財産をどのように配分するのか、というあなたの意思を法律が守ってくれることになります。
遺言書の種類には主に、直筆でしたためる「自筆証書遺言」、公証人が作成して公証役場で保管する「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言は手軽で費用がかからないうえ、2020年の法改正によって、遺言書の保管制度もできました。法改正以前までは、遺言書の保管は自分で行うしかなく、内容の確認には裁判所での検認が必要でしたが、法改正後は法務局に預けられるようになり、検認の手間がなくなったのです。しかし、実際に遺言書を作成・保管する際には、正しい手続きを踏まなければなりません。不安な場合は、司法書士や行政書士、弁護士などの専門家に相談しながら作成しましょう。一方、公正証書遺言は費用や手間がかかりますが、公証人に作成してもらえるので書式上のミスを防げるメリットがあります。
また、いずれの遺言書も、エンディングノートと同様に相続人が存在を知っていなければ意味がありません。法務局に預ける場合は死亡時の通知を希望できますが、それ以外の場合は、信頼できる人や家族、遺言執行者などに保管場所を伝えておくことをおすすめします。
③ 不用品の整理
終活では、持ちものを整理することも大切です。特に不用品は早めに処分しておくとよいでしょう。「どれも捨てられない」と、なかなかものを減らせないときは、「絶対に遺しておきたいものはどれか」という視点で考えると、整理がしやすくなるかもしれません。また、手元に残しておきたいものや、家族に遺したいものなどは、間違って処分しないように置き場所を決めておくとよいですね。パソコンやスマートフォンなどのデジタル関連もチェックをして、不用なものや見られたくないデータは整理・処分しておくとよいですよ。
使っていない口座の整理も忘れずに行いましょう。持っている口座の通帳・キャッシュカード、ネット銀行も含めて全て手元に用意します。使用口座と使用していない口座に分け、使用していない口座はなるべく早く解約をしましょう。
④ 葬儀・お墓の準備
葬儀やお墓の準備も大切な終活のひとつです。葬儀や埋葬の希望はエンディングノートに書き留めておくとよいでしょう。また、葬儀費用や葬儀の生前予約、遺影、お墓の購入費用などは、できるだけ生前に準備しておくとよいですね。
⑤ 老後資金の確保
終活では、老後のお金のことについても考えておきましょう。今は元気だとしても、将来介護が必要になった場合、年金収入だけでは老後の暮らしに備えられないかもしれません。老後資金に不安がある人は、一度シミュレーションを行ってみましょう。金融機関や不動産会社などのサイトを調べると、簡単な情報を入力するだけで将来必要なお金がいくらか試算してくれるサービスを行っていることがあります。まずはこうしたサービスで、老後資金の目安を大まかに把握してみましょう。
こうしたシミュレーションの結果、老後資金が足りないので確保したいという場合は、不動産の売却を検討してみてもよいかもしれません。住み慣れた自宅を離れることに抵抗がある人は、リースバックやリバースモーゲージといった方法もよいでしょう。リースバックは住んでいる家を売却しながら、賃貸としてその家に住み続ける方法、リバースモーゲージは住んでいる家を担保にして金融機関からお金を借りられる方法です。年金や預貯金以外に資金繰りの目途を付けられると、安心して老後を過ごせそうですね。
そのほか、利用できる福祉制度も確認しておきましょう。高齢者向けの経済的な支援としては、「生活福祉資金貸付制度」という公的な貸付制度があります。
⑥ 介護・医療に関する意思表示
いざというとき、延命治療や救急処置をどのようにしてほしいか、認知症や介護状態になったら、誰に、どこで、どう介護してほしいか、介護に使える費用も含めて希望や意思を明らかにしておくことも大切です。病気で意識を失ったり、認知症で判断力が低下したりする前に希望をまとめておくと、人生の最期まで自分らしく過ごすことができます。終末期医療に関する意思表示については、インターネットで検索すると無料で使える事前指示書が見つけられます。かかりつけ医や家族と相談しながらまとめてみましょう。
⑦ 老後の住まい選び
終活では、今後の人生をどんな住まいで過ごすかも考えておきましょう。将来介護が必要になったり、パートナーに先立たれたりしたとき、今住んでいる家は、最期まで安全かつ快適に住める場所でしょうか?状況によっては、管理が楽なコンパクトな住まいや介護サービスを受けられる住まいなど、状況に応じた住まいを選ぶ必要があるかもしれません。加えて、リフォームや住みかえのための費用も確保しておけると安心です。
⑧ 今後の生活でやっておきたいことの整理
終活と聞くとお墓や遺産などの死後のことに関心が向きがちですが、今後やっておきたいことを整理することも大切です。これまでの人生を振り返り、やりたかったのに後回しにしていたこと、約束したままできていなかったことなどを書き出してみるとよいでしょう。それらに優先順位を付けてリストにすると、悔いのない人生を送るのにきっと役立ちますよ。
■気になる・困ったときの終活Q&A
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▼身寄りがいないときは?
子どもやきょうだいがいない、あるいはいてもほとんど付き合いがないという人は、意外に多いものです。そのような場合は、「任意後見制度」「死後事務委任契約」を検討してみましょう。任意後見制度は、自分に判断能力がなくなったとき、代わりに財産管理や身の回りの手続きをしてくれる人(任意後見人)を決めておける制度です。また、死後事務委任契約は、亡くなった後の葬儀や納骨手配、公共料金の支払いといった手続きを生前に依頼する契約です。どちらの制度も、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家を指定して、委託することができます。
かつては、亡くなった後のことは家族に任せるのが当然と考えられてきましたが、家族の形やあり方が変わってきているため、今後は上記のような制度のほうが定着していくかもしれません。抵抗がある人も、まずはインターネットで調べたり資料を読んだりしてみるとよいでしょう。
▼ペットはどうすれば?
ペットと暮らしている人にとって、自分が亡くなった後のことで最も気になるのはペットの行き先でしょう。1つの手段として、自分の遺産を贈与する代わりにペットのお世話をお願いする「負担付死因贈与」「負担付遺贈」というものがあります。しかし、いずれも財産を受け取る側が遺贈を放棄できるうえ、その後の飼育状況を第三者が監視する仕組みもないため、ペットを大切に思う人にとっておすすめできるものではありません。
そこで、代わりに人気を集めているのが「ペット信託」です。ペット信託とは、信頼できる第三者(ペットを引き取ってくれる個人や法人)へ財産を託し、ペットをお世話してもらう契約を結ぶというものです。本人がペットをお世話できなくなったときは、信託財産から飼育費が支払われ、監督人を付ければその後の飼育状況をチェックしてもらうこともできます。弁護士や司法書士などの法律専門家、または信託会社などで手続きを受け付けているので、気になる人は相談してみましょう。
▼相談できる専門家は?
「終活を自分ひとりで進めるのが不安」「進め方がよく分からない」という人は、専門家に相談してみるとよいでしょう。終活の専門家には「終活カウンセラー」「終活ライフケアプランナー」などがいますが、ほかにも遺産相続に関することは税理士、不動産の名義に関することは司法書士、遺言書や相続トラブルに関することは弁護士など、相談内容に応じてさまざまな相談窓口を選べます。また、各地で行われている終活セミナーに参加してみるのもおすすめです。なかにはオンラインで行われる終活セミナーもあり、自宅にいながらセミナーに参加することができますよ。
▼「年賀状じまい」とは?
年賀状じまいとは、今後の年賀状のやり取りを辞退する最後の年賀状のことで「終活年賀状」とも呼ばれるものです。終活が注目されるなかで、年賀状のやり取りも整理したいと考える人が増えたことから、このような習慣が生まれたといわれます。年賀状じまいには、年賀状作りの手間や費用をなくしたり、人間関係を見直せたりといったメリットがあります。ただし、年賀状じまいをするときは、お断りの理由(SNSを始めた、年齢の節目を迎えた、家族で話し合ったなど)と、メールやSNSなど代わりの連絡手段を添えるのがマナーです。次の例文を参考に、丁寧な文面を心がけましょう。
〈例〉
あけましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。さて、還暦も間近となり、終活の準備を始めることにいたしました。つきましては、本年をもってどなた様とも年賀状でのご挨拶を控えさせていただきます。今後は、○○○(電話、メールアドレスなど)にてご連絡させていただければ幸いに存じます。誠に勝手ではございますが、今後とも変わらぬお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。
■「いつかそのうち」より「今のうち」に!
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終活は、元気な今のうちから始めましょう。「万が一」「もしものとき」「いつか」。そのときがいつ来るのかは、誰にも予測できません。記憶力の低下や認知症などが原因で判断力が下がると、自分の思いや決断を家族にきちんと伝えられなくなります。また、ものの整理をしながら、気持ちの整理もしていく終活は、予想以上に時間も体力もかかります。ですから、終活は思い立ったそのとき、早めに始めるのがよいのです。自分の人生を自分らしく生きるため、そして安心して老後の生活を送れるように、終活に少しずつ取り組んでいきましょう。