相続税対策を考えよう!シチュエーション別に6つの対策



 

相続税の節税は生前の対策がカギ
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定年退職を迎え、時間に余裕が生まれると、「そろそろ相続税対策をして、子どもが困らないように準備しておかなくては…」と考えることもあるのではないでしょうか?遺産相続は、財産の総額に応じて相続税がかかるようになっています。相続税は一定の金額までは控除されますが、一定額を超えると大きな負担になることもありますから、注意が必要です。

 

相続税は、前もって対策しておくことで、大きく節税できます。今回は、6つの相続税対策を紹介します。6つの対策から、自分に適している方法を選んで、相続税対策に役立ててみてくださいね。

 

 

■1、マンションを購入する
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現金で財産を所有している場合は、マンションの購入を検討してみるとよいでしょう。マンションを購入して、「現金」ではなく「不動産」として財産を保有するということです。マンション購入の税金面でのメリットと注意点についてお伝えしましょう。

 

▼メリット

現金で資産を持っているよりも、同じ金額でマンションを保有していた方が、相続税は軽減されます。なぜなら、相続税の金額を決める課税評価額は、現金よりも不動産のほうが低く見積もられるからです建物にかかる相続税の算出に使われる固定資産税評価額は、多くの場合、建築費の50%程度です。つまり、建築費の50%が相続税の課税評価額となるため、同じ金額の現金を相続する場合に比べると、半分程度、相続税を軽減できるのです。

 

また、土地にかかる相続税は、土地の時価の70~80%程度に定められています。時価は、相続税申告の際に主として使用されます。そのため、同じ金額の現金を相続する場合に比べると、20~30%ほど相続税を減らすことができるのです。一定の条件を満たせば土地の課税評価額が最大80%まで減額される「小規模宅地等特例」を利用すれば、さらに節税を望めますよ。

 

加えて、購入したマンションを賃貸にすると、さらに節税できます。賃貸の場合の課税評価額は、自宅の住居に比べて低くなります。約20%ほど相続税評価が下がるため、購入したマンションを賃貸にすると、相続税が減額されるのです。

 

▼注意点

注意点は、物件選びを判断する際に、専門的な知識を必要とする場合が多くあることです。特に、小規模宅地等特例に関しては、細かな規定が多くあります。物件を選ぶ際、小規模宅地等特例条件に適しているか、また賃貸で収益化して相続税を減税できるかなどを判断するためには、専門的知識が必要になってきます。節税に向いた物件かどうかを判断するために、購入前に専門家に相談することをおすすめします。

 

 

■2、アパートを建築して賃貸経営する
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もし土地を持っているなら、その土地を利用してアパートを建築し、賃貸経営すると、節税につながります。アパート経営をする際のメリットと注意点を見ていきましょう。

 

▼メリット

アパートの経営は、「財産を不動産で所有するメリット」と、「アパートを建築し、運営するメリット」の2つの側面があります。まず、財産を不動産で所有するメリットは、先にお伝えしたマンション購入同様、現金と比べて税金の評価額が低くなることです。また、「小規模宅地等特例」を利用すれば、最大80%程度の減税が期待できます。次に、アパートを建築し、運営するメリットは以下の2点です。

 

・アパートの建設費用をローンで借入すると債務控除が適用される

・マンションよりもアパートの方がローコストで利回りがよい

 

アパートを建築する際には、一般的にローンを組んで資金を借り入れることが多いです。相続が発生する際に借入金が残っていると、マイナスの資産とみなされ、相続対象の財産から控除されるのです。なお、借入金といっても、家賃収入で問題なく返済できる金額になります。また、マンションに比べ、アパートのほうが建築費が安く、初期投資を抑えることができるため、アパート経営の方が利回りがよいといえます。

 

▼注意点

資産運用の1つの方法であるアパート経営には、「運営面での注意点」と、「かかる費用の注意点」があります。運営面で注意したいことは、アパート経営には、空室が出たり、賃貸料が滞納されたりするケースがある点です。部屋が埋まらなかったり、滞納が続いたりすると、うまく利益を作れなくなってしまい、ローンの返済が難しくなる可能性もあります。

 

また、アパートを経営していくためには、費用がかかります。家賃収入が増えると、所得税や住民税の負担が増加したり、築年数が長くなると維持管理費、修繕費もかさみます。
税金が増え、管理費や修繕費がかさみすぎると、赤字経営になることも考えられますから、注意しましょう。アパート経営をする場合は、事業として取り組み、経営に力を入れることをおすすめします。

 

 

■3、資産管理会社を設立する
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すでに賃貸用の物件を持っている場合は、資産管理会社を設立して運営する方法を検討してもよいでしょう。資産管理会社を設立するメリットと注意点をご紹介します。

 

▼メリット

資産管理会社設立のメリットには、「財産評価で有利である」こと、そして「所得を分散できる」という2点があります。まず、財産評価で有利になる点を説明します。資産管理会社を作ると、会社のオーナーが亡くなった際、相続人は不動産ではなく、株式を相続することになります。不動産の方が現金よりも低い評価額で評価されることは先に説明しましたが、資産管理会社の株式は、不動産よりもさらに低い評価額で評価されるのです。そのため、相続税を節税することができます。

 

次に、所得を分散できるというメリットについてお伝えしましょう。家族を会社の役員にすると、所得を役員報酬という形で家族に分散することが可能になります。所得を分散することでオーナーの財産の蓄積を抑えられるため、相続税を低く抑えることができるのです。また、株式は、生前贈与することが可能です。資産管理会社の株式を少しずつ生前贈与すると、オーナーの財産が蓄積しないため、相続税を抑えることができます。

 

▼注意点

資産管理会社を設立するには、設立費用と共に、維持するためのコストがかかってきます。設立費用は会社登記の免許税、定款の認証手数料、定款の謄本手数料、収入印紙料、司法書士への報酬などです。会社を維持するには、法人税と税理士への支払いが必要になることも覚えておきましょう。

 

 

■4、相続時精算課税制度を利用する
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すでに子や孫に渡したい現金の用意ができている場合は、相続税と贈与税を一体化して課税する「相続時精算課税制度」を利用すると、相続税を軽減することができます。相続税は親の死亡後に納める税金であり、贈与税とは生前贈与にかかる税金のことを指します。詳しく見ていきましょう。

 

▼メリット

相続時精算課税制度を利用すると、20歳以上の子・孫へ生前贈与する場合、2,500万円までなら贈与税が控除され、非課税となります。ただし、贈与者が亡くなった後、贈与時の財産の価額と相続財産の価額を合計した金額から相続税額が算出されます。つまりこの相続時精算課税制度は、税の免除ではなく、納税を先送りにする制度です。

 

相続時精算課税制度を利用する場合は、土地や株など、将来的に価値が上がる見込みがあるものを生前贈与するとよいでしょう。贈与時の価額で課税されるため、その後、価格が上がっていれば結果的に相続税の節税になります。

 

相続時精算課税制度を利用する場合、1人の贈与者からの贈与額の合計が2,500万円になるまで、何回贈与を受けても非課税です。なお、相続時精算課税制度の贈与額の合計の限度額は2,500万円ですが、前年以前において、既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額となります。

 

また、相続時精算課税制度は贈与者ごとに利用できるため、両親2人からそれぞれ贈与を受ける場合、最大5,000万円まで贈与税が発生することはありません。

 

▼注意点

相続時精算課税制度は一度利用すると、その後の贈与にはすべてこの制度が継続されるようになります。1年ごとに贈与を申告する「暦年贈与」では、毎年110万円までの贈与税が基礎控除されます。しかし、相続時精算課税制度に変更すると、暦年贈与による基礎控除が二度と利用できなくなるので注意しましょう。また、土地を生前贈与する場合、相続税が減税される「小規模宅地等特例」を利用できなくなります。

 

 

■5、住宅取得等資金贈与の非課税制度を利用する
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子や孫に住宅の購入予定がある場合は、住宅取得等資金贈与の制度を利用するとよいでしょう。住宅取得等資金贈与とは、両親や祖父母から家を新築するための資金の贈与を受けると一定額まで非課税になるという制度です。

 

▼メリット

暦年贈与の場合、年110万円以上贈与すると課税されますが、「住宅取得用資金」として贈与した場合は一定額まで非課税になります。基礎控除額110万円と併用できるうえに、1,500万円が非課税になる可能性があります。

 

▼注意点

住宅取得等資金贈与には細かな条件と期限があるので注意が必要です。住宅取得等資金贈与を受ける条件と期限は以下の通りです。

 

・贈与を受けるのは直系の子や孫であること

・贈与を受けた年の1月1日に20歳以上であること

・贈与を受けた年の合計所得額は2,000万円以下であること

・贈与を受けた年の翌年の3月15日までに住宅を新築・取得し、居住すること

 

ただし、新型コロナウイルス感染症の影響で、工事ができなかったり、遅延したりした場合は、「災害に起因するやむを得ない事情」として、期限が1年延長されます。原則として、小規模宅地等特例の適用を受けられるのは、配偶者、あるいは亡くなった人と同居していた親族に限られます。また、納付税額がない場合でも、申告する必要がありますので、利用の際は忘れずに申請をしましょう。

 

 

■6、贈与税の配偶者控除を利用する
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相続人を配偶者にしたい場合は、贈与税の配偶者控除を利用するとよいでしょう。贈与税の配偶者控除とは、長年連れ添った夫婦間で使える贈与の特例です。生前に財産を配偶者に贈与して分散させておけば、相続税の節税に役立ちます。詳しく見ていきましょう。

 

▼メリット

贈与税の配偶者控除を利用すれば、住宅またはそれを取得する資金を配偶者に贈与した場合、2,000万円まで贈与税が控除されます。申告する場合、基礎控除額が110万円のため、実際には最大2,110万円までが非課税になります。通常、相続が開始される3年以内に贈与があった場合、その贈与は相続税の計算に入れなくてはいけません。しかし、配偶者控除の場合は、贈与直後に相続が発生した場合でも、相続財産を減らすことができます。また、最終的に住まいを売却する場合、夫婦それぞれで3,000万円の控除の適応が可能です。

 

▼注意点

不動産を配偶者に贈与した場合は不動産取得税、登録免許税等のコストが別途かかります。また、贈与を受けた人が先に亡くなってしまった場合、贈与した側が、再び相続することになるので、相続対策として役立たないこともあることを事前に知っておきましょう。なお、配偶者のための対策には、相続税の配偶者控除「配偶者の税額軽減」という制度もあります。配偶者の税額軽減とは、配偶者が相続した遺産額が「法定相続分相当額」、あるいは「1億6,000万円」までであれば、相続税はかからないという制度です。そのため、配偶者の相続負担を大きく引き下げることができます。

 

ただし、配偶者に相続税がかからなくても、配偶者が亡くなったときの二次相続で、子どもの相続税負担が重くなってしまう可能性があります。そのため、配偶者贈与制度だけでなく、相続時精算課税制度の利用も含めて、早くから有効な方法を検討するのがよいでしょう。

 

 

シミュレーションはプロに相談を
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これまでお伝えしてきたように相続税には多くの対策が設けられているため、知っていれば賢く節税することが可能です。ただし、数ある制度を利用できるかどうかは状況によるほか、申請には複数の書類をそろえたり、複雑な手続きが必要になることもあります。また、自分の家にとって、生前贈与か相続対策どちらが節税になるかを知るためには、個々にシミュレーションし、金額を出す必要もあるでしょう。

 

しかし、これらを個人で行うには限界があります。相続対策の不安や不明点はプロに相談をすることをおすすめします。相続に詳しい税理士や司法書士、弁護士、不動産会社の人といった専門家に相談して、相続税の負担が少なくするようにしてくださいね。また、相続税対策を考え始めたら、同時に相続人が遺産の分割でもめることがないように対策をしておくと安心です。