■高齢者一人暮らしの現状
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日本は今、「超高齢社会」といわれています。内閣府の調査によれば、なかでも一人暮らしの高齢者が男女ともに増加傾向にあることが分かっています。一人暮らしの65歳以上の人は1980年には男性約19万人、女性約69万人、高齢者人口に占める割合は男性4.3%、女性11.2%でした。しかし、2020年には男性約230万人、女性約440万人、高齢者人口に占める割合は男性15.0%、女性22.1%にまで増加しているのです。
このような現状のなか、一人暮らしの高齢者が認知症を発症する事例も多く見られます。認知症になった高齢者は、一人暮らしを続けられるのでしょうか?本記事では、認知症を発症した方が一人暮らしを続けることで想定されるトラブルや、周囲の人が行えるサポート、発症前に対策できることを解説していきます。
■一人暮らし高齢者の認知症でのトラブルは?
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もし一人暮らしの高齢者が認知症を発症しても、本人には自覚がないまま症状が進んでしまうことがあります。一人暮らしの高齢者が認知症を発症した場合や、症状が進行した際に起こり得るリスクやトラブルを見ていきましょう。
▼火事のリスク
火の不始末により、火事を招く恐れがあります。認知症の症状の1つである「物忘れ」によって、調理後にコンロの火を消し忘れたり、冬場は暖房機器を消し忘れたりすることもあります。喫煙の習慣がある場合は、特に火の始末に注意しなければなりません。
▼トイレのトラブル
認知症になると、尿意のコントロールが難しくなり、排せつのトラブルが起きることもあります。失禁や、長引く便秘で腸閉塞が起きることもあるため、注意が必要です。
▼外出時のトラブル
認知症の人は、症状の1つである「見当識障害」により、たとえ近所であっても道に迷うことがあります。ほかにも外出時に、夏は脱水症状、冬は低体温の症状などが引き起こされる恐れがあるでしょう。また、認知症には、家を出て1人で目的もなく外を歩き回る「徘徊」という症状もあります。この症状が出ると、徘徊している間に、注意不足が原因で転倒して骨折したり、横断歩道や踏切で事故に遭ったりするリスクも高くなります。さらに、運転をする人が認知症になった場合は、運転判断能力の低下や注意力の散漫が原因で、事故が起きる確率が高まります。
▼管理能力の低下
自己管理能力の低下により、さまざまなトラブルが引き起こされる恐れがあります。一例として、服薬管理が困難になることが挙げられます。特に糖尿病や心臓病など、認知症とは別の重篤な疾患を抱える高齢者の場合、服薬の管理は命に深くかかわるため、注意が必要です。量を多く飲んでしまったり、服薬したことを忘れて再度服薬したりすると、体調が悪化する危険があるため、服薬はしっかり管理する必要があります。また、管理能力が衰えると、金銭管理にも支障が出てきます。認知症になると、月々の支払いや年金、預貯金の管理が難しくなるケースがあります。さらに、高齢者を狙った詐欺に遭ってしまう、不要な高額商品を購入してしまうなどの危険性も見逃せません。
▼食生活の悪化
一人暮らしの高齢者が認知症になると、自分自身の食事のコントロールが難しくなることがあります。栄養バランスが悪い食事が続いた場合に懸念されるのは、持病の悪化や生活習慣病の発症などが挙げられます。
▼近所とのトラブル
ごみの分別がきちんとできない、あるいはごみをため込んでしまい、近隣住民とトラブルを起こすケースもあります。近隣住民との間に溝ができたことがきっかけで、不安や孤独などの感情が絡み合い、被害妄想の症状が発症しやすくなります。
■認知症になる前にできること
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親が一人暮らしをしている人は、万が一、親が認知症になったときのことを想定して、事前に準備しておくと安心です。ここからは、親が認知症を発症する前にできることをお伝えします。
▼サポートする家族を決める
中心になって親のサポートをする人を家族から選んでおきます。サポートを担当する人は世話の方針を決めたり、率先して介護したりする役割になります。そのため、多少でも認知症や介護の知識がある人であるとよいでしょう。ただし、世話や介護をその1人に任せるのではなく、なるべくほかの家族も役割を引き受けて、1人ひとりの負担を軽減することが望ましいでしょう。また、親がかかっている医療機関や服用中の薬をチェックして、家族全員で知っておくことも大切です。
▼資産を把握する
認知症が発症して物忘れが進行する前に、親の銀行口座、不動産などの資産をあらかじめ把握しておくことが大切です。資産の所有者が認知症になると、判断能力の低下を理由に、その資産に関する全ての契約行為が行えなくなり、資産が凍結されてしまうことがあります。この対策としては、親の判断力があるうちに「家族信託」を導入しておくことがおすすめです。家族信託とは、信頼できる家族や親戚などに財産の管理を任せる制度です。なお、もし認知症で判断能力が不十分になってしまった後に、不動産の売買をはじめとした当人の法的判断の必要が出てきた場合には、「成年後見制度」の利用により、その判断を代理人が行うことができます。成年後見制度には、認知症になる前に本人が後見人や後見内容などを指定しておく「任意後見」と呼ばれる種類もあります。親の判断能力が十分あるうちに、家族信託や成年後見人の準備を進めておくと安心です。
▼介護の支援制度をリサーチする
所属している職場の「仕事と介護の両立支援制度」を調べておくとよいでしょう。最近は高齢化が進んでいる状況を踏まえて、介護休暇や介護休業制度を設ける企業もあります。親の介護に時間が取られることが心配な方は、融通が利く職場や職種を選ぶのも1つの方法です。
■認知症になった後にすべきこと
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一人暮らしの高齢の親が認知症になってしまった場合、家族はどのように対処すればよいのでしょうか?ここからは、具体的な対処方法をお伝えします。
▼認知症レベルの確認
まず、親の認知症がどの程度進行しているのか、現状を把握することが大切です。認知症のレベルによって家族のサポートがどの程度必要か、あるいは、介護保険サービスを使ってプロに介護をお願いすべきかなど、今後の介護方針が変わってきます。また、資産の把握を行い、必要に応じて成年後見制度の手続きを進めましょう。本人が服薬している場合、服薬管理も忘れずに行います。
▼支援サービスや社会資源の利用
一人暮らしの親が認知症になった場合、家族との同居という方法も考えられますが、家庭の事情によっては難しい場合もあるでしょう。また、遠方に住む親を介護しようとして、気負い過ぎて徐々に介護を負担に感じるようになることもあります。そうならないためにも、一人暮らしを続ける場合は、高齢者をサポートするサービスを積極的に利用するようにしましょう。主なサービスとしては以下のようなものが挙げられます。
「地域包括支援センター」に相談
地域包括支援センターは、高齢者を支える相談窓口で、介護・医療・福祉・保険などに関して対応してくれます。地域包括支援センターの連絡先が分からない場合は、親が住んでいる地域の自治体に相談してみましょう。各自治体には高齢者福祉課や介護保険課などがあり、地域包括支援センターを案内してくれるほか、介護に関する相談を受け付けています。
「介護保険サービス」の利用
介護保険サービスを利用できるように、介護認定の申請手続きを速やかに行います。介護認定とは、介護の必要度合いを判定するもので、結果に応じて使えるサービスの種類が決まります。サービスには、在宅介護サービスとデイサービス、ショートステイなどができる通所介護サービスがあり、要介護度や症状によって利用するサービスが変わります。どのサービスを受けるのかや、どのくらいの頻度でサービスを利用することになるのかといった内容は、介護支援専門員のケアマネジャーが相談に乗ってくれます。介護認定を受けることで、介護がスムーズに進むだけでなく、介護保険制度を利用できるようになるため、自己負担額を軽減することができます。
「日常生活自立支援事業」の利用
本人の判断力の低下によって、金銭管理に不安を覚える場合に利用できるのが、日常生活自立支援事業です。地元の非営利団体である社会福祉協議会による支援事業で、高齢者本人の判断で契約します。社会福祉協議会の職員が定期的に訪問して、日常的な金銭の出し入れをはじめ、福祉サービスの手続きまでを代行してくれます。また、協議会に通帳や印鑑、大切な書類などを預けることも可能です。訪問1回につき平均1,200円の利用料金が発生しますが、定期的に職員が訪問して、生活の見守りを代行してくれるため、安心感を得られるでしょう。利用の際は、最寄りの社会福祉協議会に対して直接申請を行います。
「自治体の支援サービス」の利用
自治体が一人暮らしの高齢者に向けて支援サービスを行っていることもあります。緊急通報できる機器の貸し出し、周りの人との交流の形成や、安否確認、外出支援、金銭管理などの細やかなサービスを提供している自治体もあります。事故防止のためのリフォームに関する給付金が支給されることもあります。
「見守りサービス」の利用
遠方で暮らす高齢者の安否を見守ってくれるのが、主に民間のセキュリティ会社や郵便局などが提供する見守りサービスです。サービスには、訪問型・センサー型・オート電話型・カメラ型などさまざまな種類があります。24時間見守ってくれるほか、安否確認や緊急時の対応など、状況に応じたサービスを受けられます。
▼場合によっては一人暮らしを諦める
親が認知症になってしまった場合でも、これまで紹介してきたような支援サービスを利用して一人暮らしを続けられる場合もありますが、症状によっては一人暮らしを諦めなければならないこともあります。前述したように、健康状態に大きな影響を及ぼす場合や、行方不明になってしまうなどの本人の命にかかわる場合は、一人暮らし以外の方法を探しましょう。家族と同居する以外にも、「有料老人ホーム」や「グループホーム」を利用するといった選択肢もあります。有料老人ホームは、加齢や病気などにより自宅で生活するのが困難な人に、生活する場所や家事サービスを提供する施設です。一方でグループホームは、認知症の方が支援を受けながら共同生活を送る施設を指します。本人の希望や家族の事情を考慮しながら、ベストな選択をしましょう。
■認知症の親の一人暮らしが心配な方に
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一人暮らしの高齢の親を持つ子世代は、親の認知症を心配することが多いでしょう。親が元気なうちに準備をしておくこと、そして万が一、親が認知症になってしまった場合、自分だけで介護の負担を抱え込まないようにすることが何より大切です。その場合は、積極的に介護保険サービスを利用しましょう。介護認定を受ければ、ケアマネジャーに相談しながら、介護の方向性を決めていくことができます。支援制度を利用することで、仕事と介護の両立や、自分の生活にゆとりを持つことにつながりますよ。
介護には時間も労力もかかるため、介護ばかりに気を取られていると、「介護うつ」になってしまうリスクもあります。そのような状況を回避するためにも、介護サービスを利用したり、ときにはほかの家族に介護を任せたりして、自分の時間を持つようにしましょう。自分の好きなことを我慢しない、介護を深刻に捉え過ぎないことも、介護を長く続けていくうえで大切なことです。自分だけで抱え込むことなく、家族みんなで、そして支援制度を利用して一人暮らしの親を見守っていけるように準備をしていきましょう。
もしも、介護に限界が来そうになったら、認知症の人が入居できる老人ホームやグループホームへの入居を検討する必要が出てくるかもしれません。そうなった場合は、施設のサービス内容や間取り、費用などの詳細を確認して、検討しましょう。