■遺贈とは?
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ある程度年齢を重ねると、遺産相続について考え始める人も多いのではないでしょうか?法律では、相続権を有する人として「法定相続人」を定めています。しかし、法定相続人に限らず「介護をしてくれている長男の妻にお礼として少し財産を残したい」「自分の母校にぜひ自分の財産を譲りたい」などと考えている人は、「遺贈」という方法を取るのも1つの手です。今回は、遺贈についての基礎知識や、かかる税金、手続き方法などについて解説していきます。
▼遺言によって遺産を特定の人に渡すこと
遺贈とは、故人の意志を相続に反映させる方法の1つです。遺言により、法定相続人以外の人にも財産を引き継がせることができます。配偶者や子などの法定相続人、従兄弟やNPO法人などの法定相続人以外へ財産を渡したい相手を特定する場合に、この方法が使われます。なお、遺贈を行うときには、遺言の通りに財産の引渡しを実行する義務を担う「遺贈義務者」がそれを行います。たとえば、「自宅を長女に遺贈する」という遺言があったとします。この場合、遺言がなければ相続人全員で話し合いをして決めるところを、遺贈によって故人の遺志が反映され、長女に自宅が渡されます。その際に遺贈された不動産の名義変更が必要になります。このとき名義変更を行うのが遺贈義務者です。遺言による指定や家庭裁判所への申立により遺言執行者がいる場合は、遺言執行者が遺贈義務者となりますが、遺言執行者がいない場合は法定相続人が遺贈義務者となります。遺言執行者には、相続人や受遺者のほか、弁護士や信託銀行などを指定することがあります。ちなみに、遺言で財産の受け取りを指定された人を法律用語で「受遺者」と呼ぶのに対し、贈与契約などで財産を受け取る人のことは、「受贈者」と呼びます。
▼相続とは違う
遺贈は相続とは異なります。相続は、法律によって決められた相続人(法定相続人)が、話し合いで財産を分割して受け取ることを指しますが、遺贈は、法定相続人や遺産分割協議に関係なく遺言書によって財産を譲ることができます。ただし、遺言書で記載されている内容にかかわらず、一定の法定相続人が最低限確保できる財産は法律で定められており、これを「遺留分」といいます。そのため、遺言書に「財産の全部を○○に相続させる」と書かれていても、別の相続人が遺留分侵害額の請求をした場合は、請求した相続人に正当な権利分の財産が支払われます。
▼贈与とは違う
遺贈は贈与とも異なります。贈与は受け取る側に受け取る意思が必要であるのに対し、遺贈は遺言による一方的な意思表示であるため、受け取る側の意思とは無関係に手続き(遺言書を作成)できます。贈与の場合は、受け取る側と譲り渡す側が(口頭や書面で)契約を交わすことになるので、原則として一方的な契約の撤回や放棄はできません。また、贈与には「生前贈与」や「死因贈与」などいくつかの種類があります。それぞれの贈与の種類別に見た違いは以下の通りです。
生前贈与との違い
生前贈与とは生きているうちに財産を渡すことをいいます。生前贈与を行う際には、契約書の作成はマストではなく、口頭でも有効です。一方、遺贈は有効な遺言書が必要です。また、生前贈与は財産の所有者が生きているうちに財産を渡すのに対して、遺贈は財産所有者が死亡してから渡されるという違いもあります。このため、基礎控除額を超えたなどの場合に、生前贈与には贈与税が、遺贈には相続税が課せられます。
死因贈与との違い
死因贈与とは譲り渡す側の死亡を起点として贈与するものです。死因贈与は受け取る側の合意が必要になります。契約は口頭でも成立しますが、契約書がないと贈与の条件などの記録がなく、第三者にも示すことができないので、書面で契約するとよいでしょう。また、死因贈与は契約になるため、未成年者が契約をする場合は法定代理人(親権者など)の同意が必要になります。遺言は15歳未満ではできませんが、死因贈与契約は法定代理人の同意があれば、15歳未満でも契約することができます。
■遺贈には2種類ある
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遺贈には、「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があります。それぞれどんなものなのか、具体的に見ていきましょう。
▼特定遺贈
特定遺贈とは、財産を譲りたい相手に、具体的にどの財産を譲るのか指定して遺贈する方法です。たとえば、「遺言者の孫Aに株式を500株遺贈する」のように、どんな財産をどのくらい譲るのかを明確にできます。また、法定相続人以外の人が不動産を受け取った場合、不動産所得税がかかる可能性があります。
▼包括遺贈
包括遺贈とは、財産を個別に指定せず遺贈する割合を示す方法で、遺言者が所有する財産すべてが対象になります。たとえば、「全財産を孫Aに遺贈する」「遺産のうち3分の1を妻Bに遺贈する」などです。包括遺贈は、負債も含めて受け取る側に引き継がれますので、受遺者は注意が必要です。複数の受贈者がいる場合、どの資産をどれだけ相続するかを包括受遺者全員で決定する必要があります。ほかにも遺贈には、一定の条件や負担を付けた予備的遺言や負担付遺贈があります。予備的遺言(補充遺言ともいう)は、「妻が私より先に死亡した場合」といった条件が付いた遺言のことです。負担付遺贈とは、「妻の看病をすること」のような負担を付して遺贈することです。
■遺贈にかかる税金は?
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遺贈には、場合によって税金の支払いが必要になることがあります。ここでは、遺贈する際にかかる3つの税金をご紹介します。
▼相続税
遺産の相続が発生した際にかかるのが、相続税です。相続税は、相続した財産の割合に応じて負担しなければならない税金です。また、配偶者と一親等の血族(父母、子や養子、代襲相続人となった孫など)以外の相続人や受遺者は、税額が2割加算されます。しかし、相続税には基礎控除があります。遺産総額のうち「3,000万円+法定相続人数×600万円」分に関しては相続税がかからないというものです。そのため、実際に支払わなければいけない税額は、この控除額を差し引いた額を法定相続分で計算した相続税の総額を、財産を受け取った割合に応じて負担する形になります。なお、法人に遺贈した財産は、原則として相続税計算の対象外となります。
▼不動産取得税
不動産取得税とは、不動産を取得したときにかかる税金のことです。受け取った財産のなかに土地や建物などの不動産が含まれている場合に支払いの必要が出てくる可能性があります。遺贈の相手が法定相続人の場合は、不動産取得税は発生しませんが、遺贈の相手が法定相続人ではない場合、課税対象となります。
▼登録免許税
登録免許税は、不動産を取得した場合に行う登記手続きにかかる税金です。登録免許税は、遺贈の相手が法定相続人であっても、そうでなくてもかかります。登記は次の3つのパターンがあります。「法定相続人に相続させるパターン」「法定相続人に遺贈するパターン」「法定相続人以外に遺贈するパターン」です。登記義務者(不動産の取得者)が法定相続人である場合、遺言の表記が「相続させる」でも「遺贈する」でも税率は変わらず、計算方法は以下のようになります。
・不動産の価額×1,000分の4
一方、法定相続人以外の場合は、以下のような計算方法になります。
・不動産の価額×1,000分の20
不動産の価額(課税標準)とは、課税のために市区町村が算定するものを指します。
■遺贈の手続きには何がある?
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遺贈を行うためには手続きが必要です。どんな手続きなのか、詳しく見ていきましょう。
▼遺言書の作成
遺贈には遺言書の作成が必要です。遺言書は、要件に則って厳格に作成します。遺贈は遺言によって意志を伝えるため、正しい方法で作成しなければなりません。遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言とは、遺言者が自ら作成するもので、公正証書遺言は、公証人に作成してもらう遺言書のことを指します。自筆証書遺言は、「遺言書保管制度」により、2020年7月から法務局に保管できるようになりました。これまでの自筆証書遺言には「主に自宅で保管するので紛失や隠匿のリスクがある」「形式不備で遺言が無効となるリスクがある」「死亡時に家庭裁判所による検認が必要」などの課題がありましたが、「公的機関(法務局)で保管するので紛失のリスクがない」「法務局で形式要件をチェック」「法務局で保管すれば検認不要」と、確実性と利便性が大幅に向上しました。一方、公正証書遺言の場合は、原本を保管するのは公証役場です。費用はかかりますが、公証人が遺言書を作成するので、より確実な方法です。
▼(不動産を遺贈する場合は)所有権移転登記
遺言により不動産を取得する場合、所有権移転登記が必要になります。所有権移転登記は、受遺者と遺贈義務者(遺言執行者または相続人全員)が共同申請します。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人を指します。また所有権移転登記は、遺言執行者の有無で必要な書類が異なります。遺言執行者がいない場合は、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明が必要であることも覚えておきましょう。
■後々を考えて遺贈しよう
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遺贈は財産を譲る人の意志を反映できる仕組みといえますが、十分に考えて実行することが大切です。というのは、相続人の状況に合わない極端な財産配分の遺贈とすると、法定相続人の間や、受遺者と法定相続人の間で遺産配分の違いによって対立してしまう恐れがあるからです。また、遺贈は贈る相手への承諾なしで行えるため、相続発生後に遺贈する相手に遺贈の放棄をされる可能性があります。受遺者や相続人の生活状況や心情に配慮した遺贈内容にすることも大切です。譲りたい相手に希望通りに財産が渡せるように、正しい知識を持って遺贈の手続きを行いましょう。