■さまざまな要因からくる介護疲れ
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少子高齢化が進む日本では、介護を必要とする高齢者が増加傾向にあります。加齢だけでなく、病気やけがが原因で突然介護が必要になることもあるでしょう。介護をする側になった際、介護による疲労やストレスが問題となるケースがあります。たとえば、足腰への負担から腰痛やけがにつながってしまう場合や、介護によって社会的に孤立したり、家族・親族との人間関係がうまくいかなくなり、孤独を感じたりする場合などです。このように、疲労やストレスを放置しておくと、身体や精神にさまざまな問題を引き起こす可能性があります。今回は、既に介護の疲労を感じている人や、これからの介護に不安を感じている人に向けて、介護疲れの原因や引き起こされる問題、相談先について詳しくご紹介していきます。介護疲れの要因は、主に「身体的要因」「精神的要因」「経済的負担」といわれています。3つの要因を詳しく見ていきましょう。
▼身体的要因
要介護者への着替えや入浴、移動の際に、介護者の腕や腰、ひざなどに負担がかかることで、介護疲れにつながることがあります。また、夜中のトイレ介助やおむつ交換によって何度も起こされることで、十分な睡眠が取れず、精神的な負担につながることもあります。
▼精神的要因
要介護者やほかの家族、介護スタッフなどとの関係がうまくいかないことや、身近な人が介護状態になったショック、終わりが見えない介護に対する不安などで、疲れやストレスを抱え込み、孤独を感じることがあります。
▼経済的負担
介護にかかるお金は介護保険サービス費や介護用品、おむつなどの消耗品、医療費や交通費、施設へ入居した場合の費用など多岐にわたります。要介護者に十分な資産がない場合は、介護者が費用を負担する場合もあるでしょう。そのような場合は、経済的に大きな負担になる可能性があります。また、介護離職を選択することで、より収入が減少してしまうこともあります。
■介護疲れが悪化するとどうなる?
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現代社会は、地域や近所との交流が薄れ、親族との関係も疎遠になりがちであるため、家族間での介護は周囲から孤立しやすく、1人で問題を抱え込んでしまいがちです。その結果、次第に介護者の閉塞感が強くなり、心や身体のバランスが崩れてしまい、精神的に追い詰められ介護うつや介護離職、介護放棄につながることもあります。特に、介護に疲弊して追い込まれた状況になると冷静な判断が難しくなり、最悪の場合「虐待」といった事件に発展するケースもあります。ここでは、介護疲れが悪化した場合にどうなってしまうのかをご紹介します。
▼介護うつ
これまでご紹介してきた通り、介護は身体的な負担だけでなく、精神的なストレスも大きいです。特に認知症介護では、常に見守りが必要であり、過剰な介護の負担を周りから理解してもらえないことが原因でうつ状態になるケースがあります。うつ病の症状として、以下の症状が現れる場合があります。
・食欲不振
・睡眠障害
・疲労感
・焦燥感
・思考力の低下 など
▼介護離職
仕事と介護の両立がストレスや疲労の原因と考え、仕事を辞める人がいます。しかし、厚生労働省が行った仕事と介護の両立に関する委託調査によれば、介護離職した人の約6~8割が肉体的・精神的・経済的に負担が増えたと回答しています。離職を検討する際は、本当に負担の軽減ができるのか、ほかに解決策がないか慎重に検討するようにしましょう。
▼介護放棄
要介護度の進行と共に介護者の負担は大きくなります。その結果、介護者が精神的に疲れ果て、介護を放棄してしまうケースもあります。介護放棄の具体例としては、食事を与えない、オムツ交換をはじめとする排せつケアを行わないなどが挙げられます。その先には、親が子育てを放棄するネグレクト(放置・無視)と同様、介護のネグレクトや身体的虐待にまで及ぶ可能性があります。万が一、家族が要介護者を介護せずに放置してしまった場合は、刑法218条「保護責任遺棄罪」に問われる恐れや、「高齢者虐待防止法」に違反する恐れがあります。
■介護疲れを軽減させる対策とは?
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介護疲れを悪化させないよう、軽減させる対策を知っておくことも大切です。軽減策には、自分でできる方法のほか、民間や行政などの各種サービスに頼る方法もあります。
▼自分の時間を持つ
介護疲れを軽減させるために、しっかりと自分の時間を持つことは重要です。たとえば、趣味や外出、旅行などをすることで介護生活にオンとオフを作れます。そのほかにも、映画や美術館に出かけたり、スポーツクラブで汗を流したり、リラックスできる音楽を聴いたりと身近なところから自分がリフレッシュできる方法を探しましょう。自分の時間を持つことで、介護疲れを軽減させるだけでなく介護生活にもメリハリがつくので、より集中して介護しやすくなります。
▼各種サービスを活用する
民間や行政の実施しているサービスを活用することで、介護の負担も軽くなり介護疲れを軽減できる場合があります。どんな介護サービスが活用できるのか、具体的に見ていきましょう。
介護保険サービス
介護保険が適用されるサービスは、「要支援や要介護に認定されている65歳以上の高齢者」や「特定疾病を持つ40歳から64歳までの患者」が、一部の自己負担額を支払って受けることができます。なお、介護保険サービスを受けるためには、お住まいの市区町村で要介護認定を受ける必要があるので、事前にしっかりと確認しておきましょう。介護保険サービスの種類は多岐に渡るので、ケアマネジャー(介護支援専門員)と相談しながらどんなサービスを利用していくのか決めていきましょう。在宅介護で利用できる主なサービス内容としては、以下のようなものがあります。
●訪問介護
訪問介護とは、ホームヘルパーが自宅を訪問して行うサービスのことです。主なサービス内容は、掃除や買い物、調理などの生活支援や、入浴や排せつ介助といった身体介護です。
●訪問入浴介護
専用の浴槽を自宅へ持ち込んで介護スタッフが入浴介助を行うサービスです。
●デイサービス
要介護者が施設に通い、食事や入浴などの生活支援を日帰りで受けるサービスです。ほかにも、身体機能を向上させる目的での機能訓練や、趣味やレクリエーションなどさまざまなサービスを提供しています。
●ショートステイ
要介護者が短期間介護施設に宿泊するサービスです。在宅で介護している場合、仕事や冠婚葬祭などで介護者が自宅を空けなくてはならなくなったときや、介護者の休息目的などに利用できます。介護疲れで一時的に介護から離れたい人にとって有効なサービスといえます。
ちなみに、介護保険サービスの利用費は所得に応じて1~3割の自己負担となります。また、要介護度によっても費用が異なります。
介護保険外サービス
介護保険サービス以外にも、民間企業や市区町村が提供しているサービスがあります。ここでは主に民間企業が提供しているサービスについてご紹介いたします。
●配食サービス
生協や弁当チェーンなどで提供されている、定期的に食事を届けてくれるサービスです。持病に合わせて食事内容を細かく指定することも可能です。
●家事援助サービス
掃除や洗濯、買い物などの日常生活を支援してくれるサービスです。ほかにも、介護保険サービスでは難しいペットの世話や草むしり、外出の付き添いなども依頼できます。
●送迎・移送サービス
公共交通機関の利用が困難な場合に、外出のお手伝いをしてくれるサービスです。要介護者の自宅から病院やショッピング、スーパーなど行きたいところへ送迎することができます。車いすのまま乗り込める車もあります。
介護保険外の費用は、原則全額自己負担となります。サービスについて、何か不安や心配なことがあればケアマネジャーや地域包括支援センターに相談しましょう。
行政サービス
各市区町村が独自に提供している高齢者支援サービスがあります。主なサービスとして、以下のようなものが挙げられます。
●緊急通報サービス
持病や高齢、一人暮らしなど、常に注意が必要な人が急な体調不良などを起こした際に警備会社に通報されるシステムの貸し出しサービスです。
●理美容サービス
外出が困難な人のために、美容師や理容師が自宅に訪問し、散髪してくれるサービスです。
●紙おむつ助成
おむつを必要とする高齢者に向けて、紙おむつの現物支給や購入のための費用助成が受けられるサービスです。
ほかにも、「高額介護サービス費」や「高額医療・高額介護合算療養費」など、介護サービス費や医療費が高額になってしまった場合に、費用を助成してくれる制度があります。お住いの地域でどんな高齢者支援サービスを行っているのか、管轄の市区町村へ確認しておきましょう。
▼相談できる相手を探す
介護についての悩みや不安、心配などがあれば、1人で抱え込まず誰かに相談しましょう。担当のケアマネジャーや地域包括支援センター、介護経験のある友人などに相談することで、抱えている悩みが小さくなることもあります。仕事をしている場合は、会社の介護支援制度を確認することをおすすめします。職場にも介護をしていることを伝えて、相談できる環境を作っておきましょう。特に、認知症の介護は精神的負担が大きく、介護者も精神的に参ってしまう可能性があるため、介護者が悩みや愚痴をいえる場所を確保することをおすすめします。「公益社団法人認知症の人と家族の会」は全国に支部があり、実際に介護をしている家族が相談に乗ってくれます。また、認知症の人や家族が気軽に集まってお茶を飲んだり、専門家に相談したりできる「認知症カフェ」が多くの地域で開催されています。自分の住む地域にどのような相談場所があるか調べてみましょう。そのほかにも、無料の相談窓口や、介護の不安を共有・相談できるグループもあるので、1人で抱え込まず、悩みは早めに相談しましょう。
■施設を頼るのもケアのひとつ
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ここまで介護疲れについてお伝えしてきました。在宅介護は、ついつい要介護者のことを思って頑張り過ぎてしまい、知らず知らずのうちに負担が積み重なりがちです。ですが、介護疲れによって介護をする側が倒れてしまっては本末転倒です。そんな状況を乗り切るために、在宅介護ではなく、施設で適切なケアを受けてもらうことを考えてみてもよいでしょう。なかには、介護施設に入居したことで認知症が落ち着いたり、栄養状態が改善したりといったケースもみられます。また、あえて距離を置くことで、お互いにとってよい関係が保てることもあります。介護疲れを感じている人はもちろん、これから介護をしていく人も、万が一のことを想定して、介護施設についても視野に入れておくとよいかもしれません。