■リスクは不安を感じる前からすでにある
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ここまでがごく普通の保険の説明です。例えば、団信については「最悪でも(住宅ローンを返済する)私が死ねば家が残るから大丈夫」というようなことを冗談めかしていう人もいますが、背景にはこの保険の説明の仕方があります。たしかに最悪の状況に陥ることは回避できるかもしれませんが、それによっていいことは1ミリもありません。まるで、少し得をするかのような表現方法で説明をされるため、本当に得をするかのような錯覚を起こさせます。これが保険の売り手が仕掛けるバイアスです。もし、ちょっとでも得をするような感覚になっていたのであれば、この刷り込みはかなり厄介です。
もし、家族が大黒柱を失うと、とてつもなく大きな損失と精神的なダメージを伴います。今、住宅ローンを負うことを前にして、自分の物差しのレンジを超えたリスクを前に不安を感じているでしょうが、住宅ローンに匹敵するリスクはすでに前からあったのです。ただ「考えないようにしていただけ」ではないでしょうか。住宅ローンを負うことで、そのリスクの一部がローンの金額と返済期間という数値に換算され、目に見えやすくなったのです。リスクが目に見えるようになると、人はそれに対してストレスを感じます。それが保険を販売する側にとってのビジネスチャンスです。
自分のリスク、家族のリスクの大きさは、家を買う前も家を買ったあとも変わりません。変わるのは、そのリスクの一部、住宅ローンの元本について、ローンの期間だけ銀行も利害が一致するようになるということです。一家の大黒柱が負うべき責任は人生の続く限り続きます。これに対して、銀行と利害が一致するのは住宅ローンの元本の返済義務に限定されます。それも住宅ローンを完済すれば終了です。
私が銀行に住宅ローンが返せなくなったとして、死ぬでしょうか?たぶん死にません。ぎりぎりまでがんばって、それでもどうしようもなくなったら家を売り、それでも返済できない場合はしかるべき法的手段を取り、自己破産します。これは、安易に自己破産すればいいという意味ではありません。借金に関しては、それを視野に入れられるメンタルを持つということです。そして絶対に、家族だけは守るのです。家を買うにあたって保険を検討する際は、自分が負っているリスクと、それに対してかけられる保険について、売り手のバイアスがかかっていない「本質」を理解しておく必要があります。