【第3章 既に空き家がある場合(売るという選択)】⑨空き家を解体してから売る方法



 

ここでは【選択肢は「売る」「貸す」「管理する」の3つ】の中の空き家の「売り方」の3つの選択肢のうち、Cの空き家を解体して更地にしてから売る方法についての紹介です。仲介業者に売却を依頼しても、買い手が見つからないような場合の方法となります。

 

 

■更地にすることで売却可能性が上がる!?
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老朽化した空き家など、仲介業者に依頼しても売却が見込めず、また、空き家バンクに登録しても買い手が見つからない場合などにおいては、自身で家屋の解体業者に依頼して、空き家を除却してしまい、更地にしてから「土地」を売るという選択肢もあります。場所的な条件などにもよりますが、特に都市部においては、土地利用の自由度が高いこともあり、更地の売却となれば、一般的に買い手が見つかりやすい傾向があります。とはいえ、空き家の解体費用は、建物の立地、構造、工事の内容などによって大きく変動するため一概には言えませんが、少なくとも150万円以上はかかると想定しておいてください。

 

また物理的な解体だけでなく不動産登記も消除(消去)する必要があります。これを「建物滅失登記」といいます。滅失登記の申請に登録免許税はかかりませんが、一般的には土地家屋調査士に依頼して申請してもらうため、土地家屋調査士への数万円程度の報酬が必要となります。

 

 

■売却可能性が低ければ、解体はあせらない!
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更地にして売るという選択肢には、家屋の解体費用こそかかるものの、土地のみの売買となるため「建物の不具合」に関するトラブルは生じないという点でも安心です。ただし、注意点もあります。更地となったことで「住宅用地の特例(軽減措置)」が適用されなくなります(【前段階の「管理不全空家等」への制裁】参照)。勧告を受けた管理不全空家等は、固定資産税が最大6倍になる…という話を書きましたが、これは管理不全空家等または特定空家等になることで、住宅用地の特例が適用されなくなるためでした。固定資産税の基準日は1月1日なので、1月2日から12月末日までの間に空き家が解体されると、翌年の1月1日から住宅用地の特例が適用されなくなり、固定資産税と都市計画税が上がります

 

よって、更地にしたにもかかわらず、長期間にわたってその土地を売却することができない場合、空き家があったときよりも3~4倍の固定資産税を納付し続けなければなりません(建物の固定資産税がかからないことになるため、単純に6倍にはなりません)。解体費用がかかり、土地の売却も見込めない。さらに税金も高くなるとなっては、お金ばかりかかってしまいます。何か特別な理由がない限り、例えば、高確率で「更地にすれば売れる」と見込める場合を除いては、あわてて空き家を解体する必要はないでしょう。

 

 

■空き家解体の補助金は「事前申請」が必要!
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空き家の解体費用について、国土交通省は「空き家再生等推進事業」という国策のもと、自治体の補助金制度へ費用の一部を支給しています。この事業は、空き家が増加した地域における犯罪の増加や景観の悪化を解決するため、不良住宅や空き家住宅の除却や建替えに必要な資金の一部を自治体に支給するものであり、すべての地域に補助金が出されているわけではありません。そこで、空き家の解体を検討する際には、解体にまつわる補助金の制度があるか、また、ある場合はどのような補助金が出るのか(家屋の解体自体の補助金か、例えば、ブロック塀の撤去費用に対する補助金かなど)について、空き家がある地域の自治体に問い合わせをしてみましょう。補助金の有無や額等については、自治体によって異なります。解体費用の○分の○という形や上限が定められています。1つ注意点として、基本的には解体にまつわる補助金は「事前申請」が必要です。解体した後で申請はできませんので、解体を検討する場合は、先に補助金の有無や支給条件を確認しましょう。

 

▼空き家解体への補助金の例

群馬県沼田市「沼田市空き家解体補助金」(令和6年4月22日より申請受付)

・空き家解体工事(消費税を含む)に3分の1を掛けて得た額、上限額は20万円。

・空き家の建築日が昭和56年5月31日以前であることを証明できる場合は、10万円が加算。

・対象者は、市税等の滞納がない空き家の所有者、空き家の所有者の相続人、空き家の所有者または相続人のいずれかから同意を得た人。

※諸々の要件を満たした場合が前提となります。

 

 

■空き家の解体費用に特別なローンもありうる
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先ほどは、空き家を解体する際の「補助金」の話をしました。しかし、これはあくまでも「補助」であり、ある程度の費用の支払いを免れることができません。経済的にも余裕があればよいのですが、そうもいかない人は多いでしょう。かと言って、空き家をそのまま放置していれば、管理不全空家等に認定されてしまうかもしれませんし、維持管理の費用が継続的にのしかかってきます。そこで、金融機関によっては、空き家の解体費用に対して金利が優遇されるローンを準備しているところもありますので、そのようなローンがあるかもアンテナをはって調べてみる価値があるでしょう。例えば、島田掛川信用金庫(静岡県掛川市)では、藤枝市と結んだ「空き家等の流通促進に関する連携協定」に基づき、空き家の購入や解体に適用される「空き家ゼロにローン」を準備しています。

 

▼特別なローンの具体例

島田掛川信用金庫(静岡県掛川市)の「空き家ゼロにローン」

・担保ありで購入の場合、借入金は1億円以内、借入期間は40年以内。通常の基準金利は2.475%だが、変動金利で0.5%が適用される。

・無担保の場合、借入金は2000万円以内で、借入期間は25年まで。金利は通常、基準金利の3.155%に対し、変動金利で1.25%が適用される。

・空き家の解体では500万円まで借りることができ、借入期間は20年以内。通常の基準金利は3.155%だが、変動金利で1.25%が適用される。

 

上記の例は、空き家の「解体」費用だけでなく、「購入」費用の借入れもできます。購入費用への優遇措置があることで、空き家が売れるチャンスも高まることになりますね。

 

▼「売る」という選択肢のまとめ

 

ここまで触れた「売る」という選択肢をまとめると、以上のような全体像になります。どの選択肢にもメリット・デメリットがありますので、総合的にどの選択肢がよいか検討しましょう。